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蘇生 -03-





 目覚めた直後の村正の身体を、何の労わりも優しさも無く、ただ欲望のままに貪る様に抱いた。
 あれは拒絶や非難の言葉の一つも口にする事無くただ俺の為すがままになって…その白い面に浮かんだ哀しげな表情だけが俺の良心を咎める。

 俺は…悲しませてばかりだ。
 誰よりも大切に、そして愛しく想っていても、その相手の心を悲しませるばかり。

『…あ…ああっ…』

 今も耳の奥に残る、艶やかな喘ぎ声。
 あれが抑えようと必死になるのへ、そうはさせまい、もっともっと我が腕の内で乱れて見せよとばかりに攻める手を激しくして。

 これはたった今の情交の記憶…?
 それとも随分と昔にあれと契った時の記憶であろうか。

 どんなに希っても心も身体も遠くへ離れてしまったあれを想って過ごす夜毎、記憶のみを頼りに心を慰めていたゆえ…もうどちらなのかさえ分からなくなってしまった。

 見下ろせば、見慣れた己の寝台の上に愛しい者の姿が横たわる。
 格子窓から差し込むおぼろげな月光に照らされて、俺の滅茶苦茶な求めのせいで今は気を失って。
 抜け殻の様になったとて、俺の手許にあるならば構わぬと言った。
 だが、自らの言葉とは裏腹にその心をも己の許に引き寄せたいと思ってしまうのは無理からぬ事ではないだろうか。

 指を差し込んで、俺が欲望で穢してしまった箇所を清めてやりながら、この男の方から己を求めさせたいと思った。
 いつも求めて止まぬのは俺だけ…理不尽なことだ。
 常に柔らかな微笑みを浮べて逆に本心を覆い隠して生きて来たこの男が、素の感情をぶつけて来る姿を見てみたい。

 その為にはどうすれば…?
 ただ彼がそうせざるを得ない様な状況に追い込んでやれば良いだけの事か。それとて成功するか否かは分からぬまでも、試してみる価値は有ろう。
 どの道既に心が離れているのだとすれば、これ以上に悪い状況など有り得ぬ。

 そのままかれの目覚めを待つのも億劫で、外で冷たい風にでも当たりながら思考に耽ろうと相手を休ませた寝台に結界を張っておいてからするりと自室を抜け出した。



* * *



「吹雪…?どうかしたのですか、この様な夜更けに。」

 掛けられた声の主は、村正がこの地を去ってからは更に俺の近くに居る事が多くなった男。この男には…夜の闇が良く似合う、というよりはむしろそれに溶け込んでしまっている観があった。
 対照的に村正は…月光に照らされたならば儚く輝くのだろうが、混沌とした闇の中では呑み込まれて人知れず苦しみそうであるけれど。

「…ひしぎか。別にどうもしはしない、ただ夜風に当たっているだけのことだ。」

 特に意味を持たぬ、何気無い返答。
 どうもせぬという様な筈は無かったが、まさか己が村正を蘇生させたのだとこの男に吹聴するつもりもない。

「…あの方が亡くなられたのだと配下の者が知らせて参りました。貴方ならばもう気付いておいでなのかも知れませんが。」

 あの方、とは間違い様も無く村正のこと。
 いくら壬生と立場を異にしたとはいえ、嘗て我らの長であった相手に敬意を失わぬ言葉使いは、この男らしい。

「ああ。」

 短く肯いてやれば、動揺なさらないのですね、と小さな溜め息。
 暗にやはり気付いていたのかと確信を伝えて来る。

「鬼の子への伝承は成立してしまった様です。死の病に侵された身体でその為に全ての力を使い果たして、あの方は亡骸すら残さずに独りで旅立たれたとか。」

 その村正が今俺の室の寝台で結界に閉じ込められているのだと知ったら、お前は驚くか、ひしぎ…?

「今日一日、ずっと何処かへ出かけておられたのは…あの方の死を悼むがゆえでしたか。」

 語りかけられた言葉へ、否、と心の中だけで返事を返す。
 俺が下界へ足を運んだのは…あれを悼むが故ではなく、あれの死に様を認められぬが故。
 俺でない男の為に死んで行くことが許せなかったが故。

 ふと、室を出て来た時に考えていた事を思い出した。
 …使えるかも知れぬ。

「…ひしぎ。」

 どうしました、と顔を真っ直ぐ此方へ向ける彼の腕をぐいと掴む。
 ―――俺の無聊を慰めるつもりがあるか、と。





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