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My Dearest - 05
優しさと強さと





クイディッチのシーズンを控えて、ホグワーツではいくつもの寮対抗練習試合が行われる。
ハウスカップの正式な物ではないが、小手調べに手合わせをする事で選手達の意気は揚々と揚がって。
ましてや普段から何かと対立しあっているスリザリン対グリフィンドールの試合ならば、それは尚更の事だった。

そして、今日はその試合の当日。
クイディッチの花形とも言えるポジションであるシーカーを務めるジェームズも、ビーターを勤めるシリウスも、準備に余念が無かった。

「おい、集まれ!!」

試合前、控え室に集められたグリフィンドールの選手達の元に、キャプテンの緊張した声が掛かる。

「対スリザリンだから気を張って行こう、と言いたい所だが、今頃になって漸く情報が入った。あっちのシーカーは新顔らしい。
女だということだが、スリザリンの奴は女でも油断がならないからな、気を引き締めてかかれよ、それからジェームズ、いつも通り出来るだけ早くスニッチを取ってくれ。必要ならばあっちのお嬢さんを箒から叩き落としても構わん。」

選手達は互いに自らの箒を握り締め、最善を尽くそう、と目線を交し合って別れた。




…根拠は、無いんだが。何だか嫌な予感がするんだ。
キャプテンの言っていたスリザリンのシーカーが…どうにも、気に掛かってならない。




そんなシリウスの予感を裏付けるかのように。
フィールドに姿を現した相手チームのメンバーの最後尾に立つ人物にジェームズとシリウスは目を疑った。

長くて真っ直ぐな黒髪に、少し翳りのある色白の美貌。

(姉さん…?)
先輩…?)

参ったな、姉さんが相手では…俺はとてもブラッジャーをけしかける様な真似は出来ない。
彼女を箒から叩き落とせなんて…無理な相談だ。

今は試合中で、個人的な感情を差し挟んでいる場合ではないと分かっていても、頭の中でそんな事を思ってしまう。

対する彼女はほぼ無表情に美しい姿勢でフィールドに立っていた。
選手同士が握手をする時、彼女は軽くジェームズと片手を触れ合わせ、目線を合わせること無く離れて。




やがて選手宣誓が終わると、クアッフルが放たれる。
もジェームズも、上空の定位置で試合の行く末を見守る。
黄金のスニッチは未だその姿を片鱗も見せてはいなかった。

ジェームズとしては、やはり同じシーカーとしての彼女の力量に少なからず興味が有った。
何気無く彼女の方にちらりと目線を投げ掛けて、瞠目する。

…目を、閉じてる!?

シーカーである彼女は、自分と同様、あの恐ろしいスピードで空を駆け巡るスニッチを見つけ、そして掴まえなければいけない。
それなのに、彼女の瞼は固く閉じられ、箒に跨る姿勢は基本姿勢のまま、ぴくりとも動いては居なかった。

と、何処からか暴れ球が彼女を目掛けて飛んでくる。
思わずジェームズが危ない、と叫びそうになった瞬間、彼女はひらりと身体を回転させて球を避けた。

…気配だけで、試合をしているのか…!?

信じられない、と驚嘆せざるを得ないジェームズをよそに、下では正に混戦と評するのが適するような試合が行われている。
スリザリン対グリフィンドールの試合では珍しい事ではないが、既にグリフィンドールの選手のうちの二人がスリザリン生の違反行為によって怪我を負っていた。…未だ地面に落ちる程ではないけれど。

…早く、スニッチを見つけなければ。

気ばかりが焦るものの、中々あの気まぐれな球は姿を現してはくれない。
もし、早く球を見つける事が出来なければ、相手方のシーカーである彼女をキャプテンの言う通りに攻撃しなければならなくなってしまう。
そしてそれは恐らくビーターであるシリウスにとっても辛すぎる事であろう。
自分が彼女より早くスニッチを見つけて、追いつかれる前に掴まえる事が出来れば、その状態は回避されるのだ。
スリザリンから汚い攻撃が自分に向けられるかも知れないが、何とか逃げ切れる筈だから。




と、静止していた彼女の影が不意に風の様に動いた。
そしてそれは、動き回る選手達をものともせずに正確に避け、一気に急降下して行く。
…スニッチを見つけたのだろうか。
ジェームズには未だ求める球の姿が捉えられていなかったが、彼女を追う事で見つけられるかもしれない、とその自分もその後を追う。
中空まで降りてきた所で、彼女の行く手に黄金が見えた。
慌ててそちらに直通の進路を取る。
グリフィンドールのビーターも事の次第に気付いたのか、今最もスニッチに近い位置を占めるをブラッジャーで狙い始めた。
シリウスはそうすることも、ましてや攻撃している味方を止める事も出来ずに、ただ箒を乗り回している。
彼女はと言えば、ブラッジャーの襲来を軽くいなしながらスニッチを追い続けていた。

「シリウス!!
何やってる、お前なら出来るだろう、ブラッジャーであいつを狙え!!」

キャプテンの声が鋭くフィールドに響き。
一瞬全ての音がフィールドから消えた様な気がした。

「へっ、女にはぶつけられねえってか!?
俺達の読みは正解だったな、それじゃ、お前にブラッジャーの一撃をくれてやるぜ。」

そんな下衆な台詞がスリザリンのビーターの口から漏れ。
言葉どおりに彼は飛んで来たブラッジャーをシリウス目掛けて打った。
普段のシリウスならばその位簡単に打ち返しただろう、だが、今日は…状況を認識するのに一瞬の遅れが出た。
危ない、ぶつかる、と思った瞬間。
ジェームズの頬を鋭い風が掠めた。

一瞬後、再び周りを見回した時、シリウスはちゃんと無事に箒の上に乗っていて。
一瞬前と変わっていた事と言えば、スニッチを追う彼女の姿が前方から消えていた。
…スニッチは未だ、先程と同じ場所に有るのに。
けれど、彼女が何処にいるのかと探している暇は無かった。
一刻も早く試合を終わらせる事が先決だ、そうでなければ何人けが人が出るか知れたものではない。

スニッチに向かって一直線に進路を取る。
あと二メートルで掴まえられる、という距離につけた時、再び頬を風が掠めた。
はっとして横を見れば、今度は真っ直ぐにスニッチを見つめて追う彼女の姿。
どうして一瞬彼女がスニッチから離れたのか。
頭の中を疑問が掠めたけれど、追求するだけの時間は許されていない。

普段の試合でするように、シーカー同士で身体をぶつけあいつつ、相手を牽制すべきなのか…?
けれど、彼女はただまっすぐにスニッチを追うだけでジェームズに攻撃を仕掛けては来なかった。
全く接触する事無く、二本の箒がほぼ真横に並んでスニッチを追いかける。

そうして、その数瞬後に。その平行飛行は意外な形で幕を閉じた。

「姉さん!!」

思わず大きな声で叫んだ、シリウスの悲痛な声を最後に。




見ていてじれったくなったのであろうか、スリザリンの例のビーターがジェームズにブラッジャーをけしかけたのが発端だった。
だが、それの狙いは外れて。
実際に暴れ球に直撃されたのはの方だったのだ。

その現実にスリザリンのビーターは真っ青な顔になり。
避けないのが悪いんだ、と捨て台詞を残しながらフィールドを去って行った。

「君の姉さんは…多分避けようと思えば避けれたんだ。
でも、彼女が避けたら僕に球が当たるから…多分全て承知の上で球を受けたんだと思うよ。」

マダム・ポンフリーが立ち入り禁止にした医務室の前で、ジェームズは小さな声でシリウスに告げた。

「俺も…あのブラッジャーに狙われた時、誰かにいきなり体当たりされたんだ。
でもそれの御蔭であの球は俺の脇をかすめただけで、当たらなかった。
冷静になって考えれば、あれは姉さんがやった事だよな」

続くシリウスの言葉もほろ苦さを含んでいて。

あの時、肩を負傷して若緑の草の上に倒れ伏した彼女の紙のような顔色が脳裏によぎってならなかった。




「ここに居たのね、勝利おめでとう、ジェームズ。」

その場に駆け込んで来たのはリリーとリーマス、その後ろに隠れる様にしてピーターだった。

「う、うん…有難う、でも…」

そう言い掛けるジェームズを、分かっている、というかのようにリーマスが制する。

先輩は…大丈夫?」

まだ面会が出来ないのだ、と告げると、彼は痛ましそうに眉を寄せた。




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