![]()
節分
-2004/02/03-
![]()
「兄上・・・・・・入ってもいい?」 障子の向こうに小さな影が現れたのは太陽が西へと沈みかける刻。 読んでいた書物から顔を上げてそちらを見やれば、障子を微かに開けて半妖の弟が此方を覗いていた。 「・・・・・・何か用か。」 入って良いか聞いているのに、答えを受け取る前に室の扉を開いているのでは仕方ない、と小さく溜め息をつくと、一瞬弟の瞳が怯えた様に揺れる。 「ええと、あのね、すぐ、済むから。・・・・・・豆撒き、したいんだけど。」 豆撒き・・・・・・?一体何の事を言っている。 そんな殺生丸の疑問を打ち消すかの様に遠くから弟の名を呼ぶ声が迫って来た。 「いけません、犬夜叉様、勝手にそちらへおいでになっては!!」 さして間を置く事無く、犬夜叉の後ろから父の側近である初老の妖怪が顔を見せる。 そしてその額には、見慣れぬ鬼の面がくくりつけられていて。 「殺生丸様、お騒がせを致しました。 さ、犬夜叉様、兄上のお邪魔をなさってはいけませんぞ。」 そう言って主の息子の肩をそっと抑える妖怪へ、珍しい事ながら殺生丸は問いを掛ける。 「待て、蓬莱翁。その面妖な鬼の面は一体何の遊びだ・・・・・・?」 どうやら兄が自分の行動に興味を持ってくれたらしいと察した犬夜叉が、蓬莱翁と呼ばれたその妖怪の一瞬の隙をついて殺生丸の室の中に入り込んだ。 「鬼は外!!」 そんな声と共に蓬莱翁の額の面を目掛けて二三粒の豆を投げ付け、続けて福は内、と殺生丸の室の中にやはり二三粒の豆を落とす。 「犬夜叉様・・・・・・」 困った様に笑う蓬莱翁と満足気に手にしている枡の中身を数えている犬夜叉を見比べて、殺生丸はほう、と息をついた。 「・・・・・・何かの行事か。こやつの守り役とはいえ、避けもせずに豆をぶつけられねばならぬとは因果な役だな。」 普段から言葉少ない主の長子のそんな台詞に、蓬莱翁は穏やかな笑みを浮かべる。 「人間の世のしきたりだそうですよ。 ぶつけられる豆は、さして痛くは無い、これで一年の厄落としが出来るのだと思えば安いものでしょう。」 ゆっくりと立ち上がった殺生丸が、そうなのか、と木で作られているらしいその鬼の面に触れようとした瞬間。 不意に後ろから伸びてきた腕が彼の身体を抱き留めた。 「ふ、いくらそなたとはいえ、『鬼』を私の殺に近づけるわけにはいかんな。」 触れ合った背を通じて深く響いてくる声は紛れも無い父のもの。 「ち、父上・・・?いつの間においでになったのですっ・・・!?」 一瞬息を呑んだ後上ずった声を上げる長子に、闘牙王はにやりと口の端を上げた。 「私が来ていた事に気付いておらなんだのか、妬ける事よ。 犬夜叉の気配には逸早く気付いておったくせに。」 「・・・わざと、気配を消しておられたでしょうっ・・・」 耳を甘噛みせんばかりの主と頬を微かに染めている殺生丸の様子に、蓬莱翁が慌てて自分の袖で犬夜叉の瞳を隠す。 「さ、さあ、犬夜叉様、兄上様の室の豆撒きは済みましたでしょう・・・? 次の部屋へ参りましょう。」 気を使わせて済まぬな、と軽く腕を振る主に一瞬目線を送ってから、蓬莱翁は無理矢理に犬夜叉の背を押して室の襖を閉めた。 「お前はあの位の年恰好の頃からああして季節の遊びをする事は無かったな、殺。たまには・・・・・・こうして振り回されてみるのも面白いとは思わぬか?」 依然として背を抱きしめたままの父の言葉に、殺生丸は小さく身じろぐ。 「あの鬼の面よりも・・・・・・いきなりこの様な事をなさる貴方に振り回されてしまいます、父上・・・・・・」 俯く愛息子の顔を覗きこんで、闘牙王は豪快に笑った。 「はは、悪かった、そなたがあまりにも無防備に鬼の面などに触れようとするから思わず身体が勝手に動いてしまったのだ。」 作り物でございましょうに、と小声で反論しつつ更に顔を俯ける殺生丸の頬に父の大きな掌がそっと添えられた瞬間、その父の身体が大きく揺れる。 一瞬後には自分の方へと倒れ掛かってきた父の大柄な身体を、殺生丸がそっと支えた。 「如何・・・・・・なさいました、父上?」 結果的に肩の上に頭をもたせ掛ける形となった父に小声でそう尋ねれば、父は黙って首だけを左右に振った。 「聞くな・・・・・・私とした事が、随分と間の抜けた事をしてしまった・・・・・・」 そう呟く父が何処となく庇っているのは右足の甲。 そしてそのすぐ側には潰れた様な形になった豆が一粒。 何が起きたのかを瞬時に悟った殺生丸が思わず僅かに目を見開く。 「呆れて、おるだろう・・・?」 苦笑しつつそんな事を言い、やはり足が痛むのかそのまま畳の上へと座り込んだ父親に、殺生丸も合わせて腰を下ろした。 「痛み・・・まするか・・・?」 微かに眉を顰めて気遣ってくる彼に、ふっと闘牙王の表情がこの上なく優しげな物になる。 「大事無いよ、殺。 そなたにその様に言って貰えたら、痛みなど感じられなくなってしまった。」 そうしてすぐ側に身を寄せた己の長子の肩を抱き、着物の袷に悪戯な手を忍び込ませる大妖怪の姿を静かな星影だけが見守って。 ほんの一時前とは随分と異なったしめやかな空気が室内を覆っていった。 考えてみましたら殺兄上と父上のラブラブ(死語)物というのは初めて書いた様な気がします、本サイトの方ではいつもすれ違い万歳がモットーですから(違) ううむ、でも結構ラブラブも書いていて楽しかったぞ…はっ、もしかしてあれなのか、この『歳時記』コーナーは父と殺をいちゃつかせようコーナーなのか…!?(←そんな自分で作っておきながら今更;;) 一話完結のイベント物ですから多少のシリアス味が入る事はあってもやはりすんなり甘甘で終わってしまうのは致し方ないかも知れません。 イベント物で凄く重たいテーマだったら…多分盛り上がりませんよな(笑) ラストの辺りで出て来る豆を踏みつけるネタ…やってしまった事はありませんか、私は実は幼い頃によく被害に合いました。目が悪いので豆が転がっていても見えないんですのよ;;結構痛い(笑) というかあれか、次回は恋愛イベントの王道『バレンタイン』か…(←今回が飛び入りの小説だったわけですが)それなりに気合を入れて書かせて頂きます;; 2004/01/31 牙月紫翠@管理者 拝 |