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Voluptuous Glow


「エレス…。」

 昼下がりの、薄暗い書庫に篭っていたエレストールの許に主の姿が現れる。それを見て、裂け谷の顧問長であるエルフはびくりと肩を震わせた。

「き、卿…?何をなさっておいでなのです…もう執務は終わられたのですか…?」

 几帳面に問い掛ける声が妙に上ずって聞こえるのは何故なのか。

「ああ。済ませて来たよ…だからそなたを探していた。」

 静かに告げた主に、エレストールは手元の書物を読むかのように顔を俯けた。

「それは…お疲れ様でございました。でも…書類ならば私の執務机の上に置いておいて下さるように書置きを残した筈ですが。」

 硬質な、声。エルロンドは微かに首を傾げた。

「ああ、見たよ。 だが、執務が早く終わった時位、そなたと共にゆっくりと過ごしたいと思ったのだ。」

 又エレストールの肩がびくりと震える。

「卿…お言葉はとても嬉しいですが、私は未だ調べ物も、執務も終わっておらぬのです。」

 頑なにそう言う恋人に、谷の主は僅かに眉を顰めた。確かにこのエルフは人一倍几帳面で仕事熱心ではあるけれど…今日は何か違和感を感じる。

「何を調べておるのだ…私では、手伝う事は出来ぬか…?」

 畳み掛けるように尋ねると、エレストールは静かに本を閉じた。

「…大した事では…。もう粗方分かりましたので、…執務に戻ろうかと思います。」

 そう言って立ち上がる彼の腕を掴んで止める。と、エレストールは些か過剰な反応でその腕を引こうとした。

「何を隠している、エレス。今日のそなたは…どこかおかしいぞ…?」

 相変わらず、伏せられた瞳。

「何も隠してなど…居りませぬ。…離して、下さいませんか…?」

 珍しい事だ、エレストールがこんなにはっきりと触れられる事を拒絶するのは。

「…触れられるのを厭うとは…嫌われてしまったようだな、私は。」

 苦笑して、でも腕は掴んだままそう言うエルロンドに、エレストールが慌てたように視線を上げ、そうして一瞬合った目線を又逸らす。

「…そのような事は…。…ただ、少し残して来た書類が気に掛かっただけです。」

 そう言い募るエレストールの腕が、自分の掴んだ所から徐々に熱を持っていくのを感じる。エルロンドはそれにはっと思い当たる事があって、微かに口角を上げた。

 愛しく想うエルフは、熱の時期に入ったのか。私の言葉や行動に過剰な反応を示す事が、何よりの証拠。これは…今でしか見れぬ、恋人の珍しい姿が見られるやも知れぬ。

「分かった、それでは執務室にお戻り。私もお邪魔させて貰うとしよう…。」

僅かに笑みを含んだエルロンドの言葉に、エレストールが困ったように首を傾げた。

「で、ですが…執務が終わられたのなら、卿はどこぞで御寛ぎになられては…?」

 そんな事を言う相手に、反論を封じるかのように言い聞かせる。

「分かっておらぬな、エレス。…私が一番寛げる場所はそなたの側なのだよ。」




 無言のまま二人でエレストールの執務室へと戻る。

「ほら、おいで、エレス。…さっさと書類など片付けてしまうといい。」

 そう言って自分を引き寄せ、あまつさえ執務机の前に先に座って膝の上に自分を抱え上げてしまった主に、エレストールが微かな抵抗を示す。

「き、卿っ…!!…これでは執務に集中する事など出来ませぬ…。」

 エルロンドはそれでも抱き込んだ腕を離す事無く、更にその力を強めた。

「何故…?そなたの両腕はあけておいてやっただろう…?私の事など気にせずに、書類の整理をすると良い。」

 体勢のせいで、自然とその囁きはエレストールの耳元で為される事となる。かかる吐息にその肩がまた跳ねて。

「…あっ…」

 僅かに漏れた小さな喘ぎを隠すかのようにエレストールは羽根ペンを手に取った。
 暫く恋人がその手をさらさらと動かす音を聞いて。不意にその首筋に顔を埋めてみる。

「…っ!!」

 仰け反る背中が酷く官能的に瞳に映って。

「い…悪戯を…なさらないで下さい…。貴方が妙な事をなさるから、身体が熱くてたまらない…。」

 投げ掛けられる抗議の言葉は、まるで睦言のようにも聞こえる。

「そう…それは悪い事をした…私は大人しくしているから、執務を続けなさい。」

 エレストールの腰を抱きこんだ腕はそのままに、そう囁いてやると、エレストールが小さな声で、降ろしては下さらないのですか、と尋ねた。

「ふふ、それは出来ぬな…私とて、我慢をしているのでな…。」

 主の台詞にエレストールは諦めたかのように羽根ペンを動かす手を再開させた。
 だが、それも。数分の後には止まってしまって。

 卿の膝の上に乗せられて、後ろにその存在を感じて。あろう事か、閨での営みを思い出してしまう。

「どうした、エレス…?手が止まっているぞ。」

 笑みを含んだ主の声。

「それに…随分と身体が熱を持っているように見える…そう、そなたの此処もな。」

 そう言うが早いか、最も敏感な部分へとその手が這わされた。

「未だ何もしておらぬのに…何故このように勃ち上がっているのだろうな…?」

 優しい口調で紡がれるのは意地悪な言の葉。

「離して…お願い…ですから…離して下さいっ」

「ほう…離して、欲しいのか、誠に…?」

 低く、熱い吐息を耳元に流し込まれて。びくりと身体が震えるのを隠す事が出来ない。

「私に隠せるとでも思っていたのか…?そなた、熱の季節に入ったのであろう…必死に隠す姿もまたいじらしくはあるが…。」

 そういう間にもエルロンドの長い指が敏感な部分をゆるゆると扱いて。

「そのまま仕事を続けておいで…そなたの熱は私が鎮めてやろう。」

 けれど、決定的な刺激は与えられず、時折後ろで布越しに存在を主張する主の分身に、酷く欲情してしまう。こんな気持ちになるなんて…どうしようもなく恥ずかしいけれど、とても仕事を続けられる状況ではない。

「卿…出来ません…何も…考えられない…。お願いですからっ…焦らさないで…下さい…。」

 全ては熱の時期に見た幻。そう自分に言い聞かせて、嘆願の言葉を口にする。

「今日は随分積極的ではないか?エレストール…ではそなたの望むこと、叶えてやろうか…ただし。全て私に告げよ。その愛らしいそなたの口で…。」

 主から返って来たのは、そんな言葉で。あれでも精一杯口に出した言葉であったのに、主はそれ以上を音にせよと望まれるのだろうか。

「何を今更恥ずかしがっている…聞かせてくれるのだろう?言われぬとわからぬ。何よりもそなたから聞きたいのだ。」

 畳み掛けるように囁かれても、羞恥心は消えない。

「そなたがこんなにも素直に、積極的になるのはそう何度もあることではないだろうしな?」

 宥める様に言われて、意地悪な方だ、とエレストールの咽喉からかすれた声が漏れた。

「私が意地悪なのではないだろう?悪いのはそなただよ、エレストール…そなたが可愛すぎるのが悪いのだよ…だからほら。言ってご覧?」

 甘く囁きながら、耳を緩く噛まれる。

「そなたが言うまでは、私は手を出さずにいることにしよう…。」

 こんな生殺しのような状態のまま、愛撫の手を止められたら、私はどうなってしまうのか…。

「…あ…卿…。」

 駄目だよ、もっと大きな声で言ってくれねば聞こえぬ、と主の声は何処か楽しそうで。対するエレストールは、目の前の執務机に両手を掛ける事で震え出しそうになる身体を必死に支えていた。
 そうして、暫しの時が流れた頃、耐えかねたようにエレストールが言葉を音にする。

「貴方を…私の内で感じさせて…下さい…。」

 そうして、その言葉を皮切りに。エレストールの纏っていたローブがするりと床に落とされて。次いで、身体の向きを変えさせられる。エルロンドの瞳に映ったエレストールの表情は、これ以上は無いという程に赤く染まっていた。

 静かに分け入ってきた熱いものを、指で慣らさずとも既に内側から濡れ始めている器官で迎えて。恍惚の表情とともに、細い嬌声が上がる。

 愛しい者のそんな表情を見つめながら、エルロンドは何度も相手の身体に己を刻み込んだ。あまりの快感に気を失いかけていたエレストールの耳に最後に届いたのは、愛しているよ、というエルロンドの囁きで。
 そのまま自分を抱く相手の腕の中に崩れ落ちたエレストールの頬には、幸せそうな微笑みが浮かんでいた。

 ――――――顧問長の執務机の上に残る書類には、微かな皺が寄っていたとか。





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