
SS 『大きい背中』
幼い頃…私は父上の背中が好ましかった…。
思い出すは幼い頃の自分。
西国の大妖怪の息子である殺生丸は
ふと思い出した。
屋敷のある広々とした部屋に2人。
月明かりの中、私と父上だけが存在する。
私に背を向け、その闇夜に浮かぶ月を
見あげている大きく広いその背は月の光を遮り、私に
父上の影がかかった。
無意識に私の手は父上の背へと伸びかけていた。
ただ普通に…父上の背に触れてみたかったのだろう。
でも…私は、その頃の私はまだ、父上には届かない、
届かない存在。
もう少し、もう少し成長すれば、
強くなってゆけばこの偉大な父の背に触れられる。
強くなれば大妖怪の父を超えられる。
そう思っていた。
この殺生丸が父上を超える。
西国の大妖怪と呼ばれる父を超えるのは
この私だ。
しかし、触れてしまった…。
父上に心惹かれ、偉大さに惹かれ、全てに。
その父の背にそっと手を置いてみた。
暖かい…。
そのとき大妖怪という名には似合わない優しさを感じたのを
今も覚えている。
自分もいつかこのような偉大な妖怪になれるのだろうか。
いつか父上のような…。
自分の背を父の背につけてみる。
幼い私がよしかかっただけではびくともしない。
しっかりと受け止める父の背。
安心できる…心地が良かった。
『父上…。』
『どうした…?』
『いつか…私もあなたのようになれるでしょうか…?』
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