novels index





My Dearest - 01
ただ、すれ違うだけの人





「見たよ〜、シリウス君。
水臭いじゃないか、あんな美人と知り合いなのを隠してたなんて。
凄くいい雰囲気だったよねえ。」

…何の事だ?
突然後ろからジェームズに肩を掴まれて俺は思わず憮然とした顔をした。
俺に言い寄ってくる女は五万といるから、そりゃあその中に美人の一人や二人位いるだろうが、こいつがこんな事を言ってくるって事はそれなりに親しい間柄の奴の事なのだろうか。

「またまた〜、さっき廊下で手紙を渡されてただろう?
あ、それとももしかしてシリウス君が渡してたのかな!?」

廊下…? 思い当たる事があって俺は微かに眉を寄せた。

「…あいつとは…そんな関係じゃねえよ。」

短くそう告げれば、ジェームズはじゃあどんな関係なんだと混ぜっ返す。

「俺の姉貴だ。義理の、だから血は繋がってないけどな。・・・・・・多分。」

「姉さんっ!? 君に姉さんが居たなんて初耳だ!!
…じゃなくって。どうして”多分”なんだい?」

こいつ、いつも本当に鋭く核心を突くよなあ。

「…しょうがねえだろ、良く知らないんだから。」

つっけんどんな俺の台詞に相手は眼鏡の奥の瞳を更に煌かせた。

「知らない!? 小さい頃から一緒に暮らしてきたんじゃあないのかい!?」

詳しく説明するのも何だか面倒で、小さく『違う』とだけ答える。

「でも何で今まで気付かなかったんだろうねえ…君の姉さんなら文句無しに目立つ筈なのに。」

不思議そうに首を傾げるジェームズを見て、そう言われればそうだなと今更ながらに思う。悪戯仕掛け人の異名を取った事もあってか、俺やジェームズ、リーマスはホグワーツでも五本の指に入る位に目立つ存在だ。そんな俺と同じ苗字だったら、少なからず他の生徒達に噂されるのではないのか、あのシリウス・ブラックの姉なのかと。俺がホグワーツに入学して三年も経つが、別に互いに姉弟である事を隠している訳ではないのだし。
…待てよ。俺の側では誰にも聞かれなかったから言わなかっただけで、あいつの方では隠していたのかな。成績がそれなりだとは言っても、事有る毎に悪戯をしてフィルチに追い掛け回される様な弟の存在はあまりあいつにとって有難いものではないのかも知れない。あいつは俺に迷惑そうな顔をした事も、親父に告げ口した事も、口を出して来る事さえなかったけれども。
…代々グリフィンドールに配属されるうちの家系には珍しくスリザリンに組み分けされてたしなあ…寮内の風当たりもきついのではないだろうか。

「で、名前は?」

思考に沈み込んでいた俺を、ジェームズの声が引き戻す。

「…え?」

悪い、聞いてなかった、と謝る俺にジェームズが質問を繰り返す。

「名前だよ、名前。君の綺麗な姉君の御名前は?」

何処か時代掛かった様なその言葉に首を傾げながらも、あいつの名前を教える。

「…あ、ああ。、だ。」

ふうんと鼻歌を歌いながら離れて行くジェームズの後を、俺は小走りで追いかけた。




「お、おい、何処行くんだよ。」

流石悪戯仕掛け人のリーダー格なだけはある、中々ジェームズに追いつく事は出来なかった。ようやく追いついたのはスリザリン寮へと向かう廊下の終わり。

「おや、シリウス君、追い掛けて来るなんてどうかしたのかい?」

飄々と笑う相手にがくりと肩を落として。

「…お前なあ…聞こえてただろ、俺がさっきから呼び止めてるのが。」

まあね、と肩をすくめる相手はそれでも全然悪気は無さそうで。

「で、宿敵スリザリン寮まで来て、お前一体何する気だよ、ジェームズ。」

諦めて肝心の問いを発する。
言い終わったと同時にジェームズがにやりと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「そりゃあ…目的は色々あるよ。
一つ目は勿論恒例のスネイプへの悪戯の下調べだね。
それからもう一つは…君の姉さんとお近付きになりたくてね!!
…でもびっくりしたよなあ、彼女全然スリザリンの嫌な感じがしなかったから。」

観察力の鋭い男だ、一瞬その姿を見ただけなのに、既にあいつの制服のネクタイの色まで確認済みなのか。

「だから何で姉貴と”お近付きに”なりたいんだよ!」

「当たり前だろ、同室の親友の姉さんの事を今の今まで知らなかったなんてこのジェームズ・ポッター一世一代の恥だよ!?挽回しに行かなくてどうするのさ!!
…勿論、『シリウス君の弱みの話とか聞けるかも〜』って下心が無い訳でもないけどね。」

そんな事だろうと思った。…思っていたけれども。
何でだろうな、あいつの事だけはそういう軽い話題に巻き込みたくないんだ。
出会った時からずっと、あいつは俺の聖域だから。

黙り込んでしまった俺を、不意にジェームズが真剣な顔で覗き込んだ。

「ごめん、シリウス、調子に乗りすぎてしまったみたいだ。
…でもいつか紹介してくれるといいんだけどな。」

ふざけているだけではなく、気配りも抜群に効くジェームズが、こんな時は有難い。
あっさりと踵を返したジェームズの後を追って、俺もグリフィンドールの談話室に戻った。




そもそも俺が今日あいつと話したのは実家からフクロウ便が届いたから。
毎回親父から手紙が届く時、大体俺宛てのと姉貴宛てのが同じ封書に入っていた。
フクロウはまず先に俺の所に来て、それから姉貴の所に飛んで行く。
まれにどちらかが不在だと、もう片方が代わりに受け取っておいて後で手渡す形になっていた。

いつからかそれを、俺が両方とも受け取る様にしてしまって。
食事の後等に姉貴を呼び止めて渡していた。

…同じ学校に通うのだからもっと接点があるかと思っていたのに、実際は殆ど会う事さえ無い。
そんな現実に業をにやして取った行動だったが、姉貴はやっぱり何の反応も返さずに毎回黙って手紙を受け取った。
俺が声を掛けると、シリウス、と驚いた様に足を止め、『ありがとう。』と小さな礼の言葉だけを残して足早に去って行ってしまう。

本当に、ただ手紙を受け取った時にのみ。
月に数度、言葉を交わすだけだった。

なあ、姉さん。
俺はこんなにあんたが気になってしょうがないのに、あんたは俺の事なんて何とも思ってはいないのかな…。






Back || Index || Next
template : A Moveable Feast